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遺産分割制度の法改正

1 遺産分割について

遺産分割とは、被相続人(亡くなられた方)の財産を、相続人が複数いる場合に分割することをいいます。

遺産分割は、遺産の種類や性質、相続人の年齢・職業・心身の状態・生活状況等を考慮して行うものとされていますが(民法906条)、複数の相続人がいる場合で、遺言がない場合には、法定相続分に従って分割することが通例です。

2 法定相続分と修正ルール

(1)法定相続分

法定相続分については、多くの方がご存知かと思いますが、相続人が配偶者と子の場合は2分の1ずつ、配偶者と直系尊属(父母など)の場合は、それぞれ3分2と3分の1、配偶者と兄弟姉妹の場合は、それぞれ4分の3、4分の1となっています(民法900条)。

これだけのルールであれば、遺産分割は比較的シンプルなのですが、この法定相続分を修正するルールが民法に規定されています。

(2)特別受益・寄与分

一つは、被相続人から生前贈与等を受けた方は相続分を減額修正するルールである「特別受益」、もう一つは、被相続人に対して生前に特別な寄与をした方に相続分を増額修正するルールである「寄与分」があります。

特別受益は、例えば被相続人である親から結婚のときに多額の贈与を受けた場合、マイホームを建てるために親から頭金を用意してもらった場合などが当たり得ます。

寄与分は、被相続人が行っていた事業に参画して会社の収益を大きくした場合や、被相続人の療養看護を特に手厚く行っていた場合などがあります。

このような「特別受益」や「寄与分」がある場合には、法定相続分の修正計算(やや複雑な計算をします)を行った上で、遺産分割を行うことになります。

3 特別受益・寄与分ルールの改正(2023年4月1日施行)

令和5年4月1日から、特別受益と寄与分に関する改正民法が施行され、相続開始時から10年が経過した場合には、原則して、特別受益や寄与分の修正ルールは適用されないこととなりました(民法904条の3)。この改正ルールは、令和5年4月1日以前に発生した相続についても対象となります(どこまでの相続が対象になるかは専門家にご相談ください)。

このような10年の期間制限が設けられたのは、長期間にわたって遺産分割がなされないと、生前贈与や寄与分の資料が不明確となったり、遺産に不動産がある場合には所有者不明や共有者が多数になったりするため、特別受益や寄与分があるときは、早めに遺産分割してくださいというのが改正趣旨と考えられます。

特に、寄与分があると思われる相続人については、10年制限ルールがありますので、話がまとまりそうにないときは、早めに遺産分割調停をしておくといいでしょう。

なお、特別受益や寄与分がない場合は、遺産分割に期間制限はありませんが、今年(令和6年)4月1日から相続登記をすることが義務化されています。詳しくは、(相続不動産に関する法制度の改正)コラムをご覧ください。

4 遺産分割前の預貯金の引出し

(1)民法改正(2019年7月1日施行)

遺産の中で一番分けやすいものといえば、やはり預貯金になります。しかし、民法改正前は、この預貯金であっても、遺産分割前は自由に引き出すことが認められていませんでした。この点は、最高裁で過去何度も争われてきましたが、最高裁は遺産分割がない限り自由な引出しを認めてきませんでした(最高裁平成29年4月6日判決)。

そこで、せめて葬儀費用や当面の生活費くらいは遺産分割前に認めてもいいのではないかとの問題意識から、民法改正がなされ、預貯金の3分の1の額に法定相続分を掛けた額(ただし最大150万円)については、遺産相続前であっても、共同相続人が単独で預貯金を取得することが認められるようになりました(民法909条の2)。

(2)預貯金引出しの注意点

民法909条の2によって、預貯金の引出し制度ができたことで、「それなら葬儀費用や当面の生活資金として預貯金を引き出そう」と、安易に動くのも注意が必要です。

というのは、預貯金を引き出した後になって、実は被相続人に多額の借金があることが遺産調査で判明することがあります。それならやっぱり相続放棄しようとしたところ、既に預貯金を引き出していることから、「相続財産の一部を処分」したとして、法定単純承認に該当し(民法921条1号)、相続放棄ができなくなるリスクがあります。

この点、民法909条の2制定以前の裁判例では、相続債務があることが分からないまま、遺族が被相続人の預金を利用して仏壇や墓石を購入することは自然な行動であり、購入した仏壇・墓石が社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない場合には、「相続財産の処分」に当たるとは断定できないとして、相続放棄を認めた事例もあります(大阪高裁平成14年7月3日決定)。

しかし、新たに制定された民法909条の2後段では、被相続人の預貯金債権を単独行使した場合には、その分については遺産の一部を分割により「取得したものとみなす」と、みなし規定が置かれていることから、先ほどの大阪高裁決定のような人情的判断のハードルが上がっているように思われます。

そのため、被相続人に多額の負債があると見込まれる場合には、軽々に預貯金の引出しはしない方が安全かと思われます。

 

近年、相続法に関連する法改正が多くなされているため、相続での判断にお困りの際は専門家にご相談してみてください。

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